セールスとCSMの連携について考える(後編)

Makiko HONJO
Mar 30, 2021

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こんにちは、くるくるです。LAPRASという会社でカスタマーサクセスマネージャー(CSM)として働いています。

CSMとして働いていると必ず課題として出てくるのが、セールスとの連携。特に新規営業との意見の食い違いに苦労することは多々あるのではないでしょうか。

前編ではセールスとCSの切り分け方について書きましたので、後編ではBtoBの製品のケースに絞って、セールスとCSの効果的な連携のためにどのようなことに注意すべきなのか、実際にLAPRAS社でどのように体制を構築してきたのかをご紹介したいと思います。

(ちなみにBtoBの場合はセールスとCSの連携が問題になるケースが多いですが 、BtoCの場合は高額商材以外を除きマーケとCS連携というケースが多いかと思います)

セールスとCSの効果的な連携

社内でどのような職種であっても、顧客から見たら同じ会社の人なので、お互いにしっかりとバトンを渡していくことに尽きるかと思います。

複数人がミーティングに参加することは業務上のオーバーヘッドが発生するので効率が良くないという考え方もありますが、私は顧客との関係構築が重要な場面ではその少しの効率よりも効用の方が大きいと考えています。また、初対面からの関係構築がプロセスで担保されていることで、CSMに求めるスキル(初対面でのプレゼン能力)が1つ減るので、採用でスーパー人材を求めなくても良くなります。(CSMで成果を出す人が必ずしも初対面での関係構築に強いとは限らず、ここだけが苦手という人も多いです)

特に初対面となるキックオフミーティングなどでは、関係を構築できているセールス担当が顧客に対してCSMを紹介し、信頼獲得の後押しをすることが効果的です。

契約開始初日に今までと全く違う人間が出てきて信頼関係を構築し直すのは、顧客にとってもCSMにとっても全くメリットがありません。セールス担当が潤滑剤となるのが全員ハッピーです。

時々新規営業担当がそのまま契約開始後も担当して欲しい、といったリクエストを受けるのですが、営業メンバーの対応が良いということの他に、「他のサービスで営業担当が良かったから契約したのにサポートが全然ダメだったので、良い営業担当をキープしたい」という保険をかける意識が見え隠れするケースがあります。

顧客に対しては会社として一貫した言動を

導入前や契約更新交渉で顧客に約束したことは、個人ではなく会社としての約束です。セールス担当は約束したことを正確にCSMに伝えなければいけませんし、CSMはそれを無視してはいけません。

もちろん顧客も人間なので、セールス担当の話を誤解していたりするケースもあります。そのような場合でも話した当事者から言われるのと、別人から指摘されるのでは受け手の気持ちが全く異なってきます。同席している場で前提となる内容をセールス担当から両者に確認するなど、伝言ゲームで不信感を招かないようにケアすることが有効です。また、プロダクトが新しいものであったりする場合は商談時に内容を正確に伝えきれないこともしばしば発生します。そのような場合の確認項目をセールスとCS間で共有しておくこともこのような行き違いを減らす手助けになります。

アポイントのタイミングを可視化する

MTGが続くと、顧客の方も「3日前にAさんと話したはずだけど今日はBさんとMTG。なんの話をするんだっけ?」となりがちです。MTGが微妙なタイミングで重複しないように調整するなどを考えましょう。顧客はこちらが意識しているほどには社内の役割分担について詳しくないので、こういった微妙なノイズがストレスになる場合もあります。

また、CSMのMTGの結果によってセールス担当が用意するプランが決まったり、セールス担当が顧客の社内事情をヒアリングしてくるようなケースもあります。そういった場合は社内できちんと情報共有されていることを伝え、「セールスのAからこのように聞いているので、一度XXについてご提案したい」などといった、効果的なコミュニケーションをとることが可能になります。

記録を残し、申し送りをする

そして当たり前ですが、顧客とのMTGの記録を残し、次に接触するメンバーがいつでも参照できることはマストです。当たり前すぎるのですが、経験上、実はこれが徹底できていない企業の方が多いのではないかと思っているのであえて入れてみました。

いつでも参照できるだけでなく、できればセールス担当→CSM/CSM→セールス担当に向けて必要な情報を記載し、読まれるのを待つのではなく能動的に申し送りをすると良いです。一人当たりの担当社数が増えると全ての顧客を常に意識の上に置いておくことは難しいので、リマインドの効果もあります。

異職種間で必要な情報が異なることも多いため、メモを残す際はどのような情報を残すべきか雛形を用意しておくと、経験の多くないスタッフでも迷わないでしょう。Hubspotではプレイブック機能があるのでそういったものを使用したりもします。

以前、引き継ぎで残されていたメモに、「(商談のトークが)ささった。」とだけ書いてあったケースがありました。CSMとしてはせめて、どのような立場の誰にどんなポイントが響いていて、刺さった理由はなんなのか(おそらくそこに解決したい課題や理想の何かがある)の見解があると嬉しいですね。商談の場に具体的にどのような人物が出席していたか、だけでも、オンボーディングを進めていく上では十分重要な情報になりえます。

逆に、CSMのメモは運用上の問題やHow toが多くなりがちなので、セールス担当が必要な情報(基本的には契約更新やその他の商談機会につながる情報)を記載するようにします。セールス担当は当然CSMほどには顧客の運用状況を知らないので、動いて欲しい時にはその背景や、やってほしいことを具体的にインプットするようにします。

そして、依頼して動いてもらう場合には、依頼して動くだけでなく、アポイントが設定されるまでは自分のタスクとして追いかけることをお勧めします。

管轄の情報は責任を持って管理・伝達する

通常、契約や請求に関してはセールス担当が、運用状況についてはCSMが責任を持って管理しています。これらの情報はどこかに書かれていますが、通常その業務にあたっていないメンバーが詳しく知っているわけではありません。また、例外対応などがあると情報の主管者以外はどうしても検知が遅れがちです。

例えばセールス担当であれば顧客の契約プランや有償の追加プラン、無償で特別対応する内容、契約関係のトラブルなどは正確に伝わるように伝えることが必要です。CSMであれば運用状況とその評価について、セールス担当が素早く概要を把握できるように提供することが必要です。

また、セールス担当がCSMのサポート方針を顧客の前で否定したり、CSMがセールス担当に隠れて有償メニューを無償提供するようなこともダメです。意見や要望がある場合は社内で調整をするか、まとまらない場合は上司に掛け合うなどで解決しましょう。

KPIを相互依存に

セールスとCSMのKPIがトレードオフになっている事例をよく見かけます。典型的には、

セールス:新規売上額や受注件数
CSM:契約継続率、アップセル・クロスセル

などと設定されるケースですね。マーケやインサイドセールスでも同じように商談数と受注件数などといった、質と量がトレードオフになるKPI体系がよく見受けられます。現場からすると非常にシンプルで良いのですが、ビジネスプロセス全体で見た場合には部門間の利益相反を起こしやすく、本当に最適な指標になっているのか注意が必要です。

サブスクリプション型のサービスであれば、どのようなサービスであっても成功しやすい条件の揃っている顧客と、そうでない顧客が存在します。本来、成功しやすい条件の揃っている顧客がサービスの実力値(狭い意味でのマーケット)になるのですが、契約するだけであればセールスの技術である程度パフォーマンスを上げることが可能です。ただし、その分CSの難易度は上昇し、コストもかかり、契約継続率は低下します。逆に、成功しやすい条件が完全に揃っている顧客だけを受注しようとすると、新規受注の難易度が上がり、CACは上昇し、既存の顧客基盤が小さい場合にはビジネス全体の成長が鈍化してしまいます。

セールスのKPIが上がればCSMのKPIも上昇する、といった相互依存的なKPIを設定することで、こういった自転車操業や縮小均衡に陥ることを防ぐことができるのです。顧客のライフサイクルが長いプロダクトの場合は、契約の入口で行った施策の効果が現れるまでに時間がかかります。入口(契約)で無理をするとそのツケは出口(契約更新)で現れるため、入口と出口両方のリスクとリターンを同じ部門に任せることでコントロールが効きやすくなるという効果を得ることができます。

顧客から見たときに1本の線になるように

セールスとCSMはともに最も直接的な顧客接点の多い職種です。いわゆるロータッチ施策も含め、顧客から見た場合に1本の滑らかな線になるような体験を提供しつつ、社内的にはセールス担当とCSMが刺激し合うような形になっているのが一つのあり方かなと思っています。

LAPRASではある程度までそのような体制を構築できたので、その経緯などを振り返ってみたいと思います。

LAPRAS社の場合

LAPRAS社は法人向けに LAPRAS SCOUT というハイスキルエンジニアのダイレクトリクルーティングサービスを運営しています。主に関わるのはマーケ、セールス、CSです。

LAPRAS SCOUTの競争環境

LAPRAS SCOUTは現在のところ「ハイスキルな」「Web系エンジニアをターゲットにした」「ダイレクトリクルーティング・データベース」というカテゴリーのサービスです。

昨今ダイレクトリクルーティングサービスは多数出現していますが、その中でも転職者にとって優位な市場であるITエンジニア向けのサービスは新規参入も多く激戦のフィールドになっています。顧客の採用担当者はある媒体がうまくいかなければ別の媒体…というように次々と利用してみることも可能ですし、転職エージェントを複数社契約することも多々あります。更に、大半のサービスは初期費用が無料または限りなく低く抑えられていて、採用成功した場合に高額のフィーがかかるという料金体系になっていることが多く、容易にスイッチすることが可能です。

このように常に他の媒体やエージェントとの競争にさらされているため、LAPRAS SCOUTの状況だけでなく顧客のエンジニア採用状況全般に目配りする必要があります。

(個人的には、LAPRAS SCOUT でなくても良いので、これと決めたダイレクトリクルーティングのサービスを使い倒していただくのをお勧めします)

採用担当者は非常に多忙

LAPRAS SCOUTのご利用企業の多くは小〜中規模のベンチャー企業です。そのため、採用担当者が1人で他の人事業務を兼務しているケースも多く、スカウトだけでなく面談・面接、調整業務、労務や人事評価などさまざまな業務で非常に多忙なことも稀ではありません。また、LAPRAS SCOUTの場合は社長やCTOが採用にコミットしていただていることも多いです。

このような状況では、多忙な日常業務の中で、スカウトへの投下時間とLAPRAS SCOUTへの関心を確保することがそのまま運用の成功に直結します。

スカウト業務はアウトソースされるケースも多い

ダイレクトリクルーティングは非常に手間がかかります。スカウト自体も労力がかかりますし、企業からスカウトする以上、選考に入ってもらうまでのコミュニケーションが必要になってくるからです。また、スカウト業務にも一定のスキルが要求されます。

そういった背景から、スカウト周辺業務を専門の事業者(RPO)にアウトソースするケースも増えています。そのようなケースではメインの運用担当が顧客企業ではなく社外の関係者になるため、社員の方とコンタクト自体が難しくなるケースが多いです。

LAPRAS SCOUTをはじめとしてダイレクトリクルーティングサービスでの採用を成功させるためには、サービスで機能として提供されているスカウト以外のプロセスも重要です。

採用が順調に進まない原因として、ポジション要件定義の質や採用マーケティング、面談や選考プロセスの設計などスカウト以外のさまざまな要因が存在しますが、スカウトの前後プロセスは媒体別に管理されていることが少ないので、スカウト起点では改善の手が入りにくいです。どのようなサービスを使っていても採用が成功しづらい状況が存在しますが、採用プロセス上、媒体の変更が一番試しやすい手段のため、結果が出なければまず一旦媒体を切り替えようという結論に落ち着く傾向があります。

顧客担当者との距離が遠くなると、こういった改善の提案の難易度が上がります。

社員数に占めるユーザーの割合が小さい

LAPRAS SCOUTはダイレクトリクルーティングの媒体のため、その必要性と情報のセンシティブさから、顧客社内の利用者数がスカウト担当の数名のみとなるケースが多いです。

そのため以下のようなイベントが発生すると、運用するスキルや体制が十分にあっても運用が停止してしまうことがあります。

  • 運用担当者の変更・ロイヤリティの高い担当者の退職
  • 他業務の優先度の上昇
  • エンジニア以外の採用の優先度の上昇

このようなイベントにより、一度オンボーディングが成功していても簡単にリセットされてしまうという状況がたびたび発生します。

上記の課題はダイレクトリクルーティング媒体であれば、多かれ少なかれ発生するものと言えます。これらの課題に対してLAPRAS SCOUTで取ってきたアプローチを(過去の失敗込みで)簡単にご紹介します。

LAPRASの顧客フォロー体制の変遷

当初は営業担当がそのままサポートも行う形

プロダクトの正式なリリースからしばらくは、セールスやCSMなどといった区分けはなく、全員が「ビジネスサイド」として、セールスもCSも行うような体制でした。(当時LAPRAS SCOUTは scouty という名前でした)

契約社数が増加し、メンバーが増えてきたことで本格的にCSニーズが出てきたため、セールスとCSMを分業化します。

SaaS型を目指していた

LAPRAS SCOUTはサブスクリプション型の料金体系を採用し、典型的な人材データベースサービスではなく、SaaS型のサービスを目指していました。

当初の業務分担では、大きく、

新規獲得 vs 既存サポート&契約更新営業

という切り分けになっており、契約開始後、キックオフから後工程の全てをCSMが担当し、契約継続率もCSMのKPIとして設定されていました。

当時のLAPRAS SCOUTは現在よりもずっと使い方が難しく、日本国内に類似のサービスが存在しなかったこともあり、商談時点で顧客の期待値を適切にコントロールすることができていませんでした。ビジネスプロセス上引き継ぎポイントにエアポケットができており、セールスから十分に情報が引き継がれないことがあったり、立ち上げに重要な情報がヒアリングされていなかったりと課題が山積していました。さらに、契約単価やサービスの特性上、商談(≒ 顧客の社内調整)に時間をかけることが難しく、導入準備不十分のまま突然契約が開始してしまうなどのトラブルや、先方体制や運用のキーパーソンが把握できていないというようなことも発生しました。

結果、前述の競争環境下では最適な体制ではないと結論付け、現在のアカウントマネージャー(AM)とCSMのペア体制に移行することになりました。

アカウントマネージャーとCSMのペア体制へ

とはいえ、アカウントマネージャー(AM)とCSMのペア体制に移行した直後はあまり円滑に業務が進みませんでした。原因としては、役割が変わったにもかかわらず以前の受注前/後の役割分担から離れられなかったり、エアポケットになっていた受注前後のプロセスがブラックボックス化し、正確に把握できていなかったなどいくつかの要因がありました。

しかしすぐに体制やプロセスの再編も進み、契約関連、トラブル対応や顧客社内の稟議コミュニケーションはセールスへ委任し、CSMはプロダクトの付随サービスとして顧客の採用成功とプロダクトへのフィードバックにフォーカスするという役割分担が確立し、トラブルがある度にリクエストをしていくことで、お互いのコミュニケーションについても整備されていきました。

結果、営業側面と採用側面を分離し、採用の成果および、営業活動にフォーカスできるようになりました。結果、顧客の成功と売上の双方がトレードオフにならず、各々を最大化するためのアクションを取りやすくなったと思います。

現在は契約前時点からセールスとCSMのコミュニケーションを開始し、アサインメントや顧客情報の連携を行い、契約開始から顧客のキックオフまでのフローはCSM主体で設計しているものの、MTG設定まではセールスの責任という分担で動いています。CSMは裏方で準備を進めつつ、セールスが同席するキックオフMTGの場で本格的に顧客とのコミュニケーションを開始するという流れになっています。

おわりに

セールスとCSMの連携はどの企業でも悩ましいポイントだとは思いますが、プロダクトやビジネスの性質に合わせてプロセスやKPIを設計することで双方の活躍がトレードオフになることをある程度防止することが可能です。

今回は現状のLAPRAS社の事例からの学びをお伝えしましたが、プロダクトが進化してビジネスが変化すればまた最適な方法が変わってきますので、今後も改善を続けたいと思っています。

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Makiko HONJO
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Written by Makiko HONJO

PdM at LAPRAS Inc. Interested in life course, education and career design for women.

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